株式会社スチームシップ

地域は宝の山。眠っている宝を探し、磨きあげて、全国に届ける「船」になりたい。

2023.02.02
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代表取締役 藤山雷太さん
株式会社スチームシップは、長崎県波佐見町に本社を置くスタートアップ企業。その創業者が、藤山雷太さんです。藤山さんは1983年、佐賀県生まれ。九州大学卒業後、東京のIT業界で活躍していましたが、2011年に佐賀県にUターンし、2017年に同社を創業しました。
そして取り組み始めたのが、自治体向けのふるさと納税支援事業。今や長崎県内にある22の自治体のうち、13の自治体から委託を受ける人気ぶりで、噂を聞きつけた県外の自治体からもオファーが相次いでいるとか。そんな急成長の秘密や、ふるさと納税制度の意義、地域の可能性について、藤山社長に語っていただきました。

半年で波佐見町への寄附が10倍に

当社は、地域密着型でふるさと納税の支援事業を行う会社です。「地域のブランド価値を上げていく」ことを目標に、返礼品の企画や開拓・管理、Webページの立ち上げ・運営、地域事業者および自治体への技術支援、カスタマーセンター運営などの業務を一括して請け負っています。

最初に支援したのは、長崎県波佐見町です。以後、支援する自治体は毎年増え続け、現在は22の自治体から同事業の委託を受けています。長崎県内だけでなく、福岡県や佐賀県、岐阜県の自治体もお手伝いさせていただいています。いずれもこちらが営業をかけたというより、先方から話を聞きたいと問い合わせを受けるケースがほとんどですね。
人気の理由は、シンプルに「実績」だと思います。私たちが波佐見町のお手伝いを始めてから、それまで4500万円だった寄附が、半年で10倍以上になりました。その他の自治体も軒並み、寄附金額が増加。今年(2022年)は全部で、約200億円の寄附金額を達成する見込みです。

最大の強みは、地域密着型の支援

ふるさと納税事業については、全国の多くの自治体が外部に委託しています。なぜかというと、自治体が自前で行うのは難しいからです。まず商品企画が難しい。何が売れるのかを見極めないといけないし、商品を企画できたとしても、今度は画像がうまく作れない。PRの仕方もわからない。Web上での見せ方が悪ければ、ブランディングとしてはむしろマイナスになってしまいます。その商品の魅力をきちんとユーザーに届けるためには、見せ方やWebマーケティングのノウハウが重要。ですから多くの自治体がふるさと納税事業を大手の代行企業に丸投げしていました。

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波佐見町も以前はそうだったんです。ところが、丸投げしただけではなかなか寄附金額が上がっていかない。それで悩んでいる自治体がとても多かったようですね。波佐見町の場合、代行業者の担当者が現地にほぼ来ていなかった。地場の企業との連携を強化して初めて他のまちにはない魅力的な商品ができると思います。ここが地場産業を底上げする一番の肝だと認識しています。私たちは月に100商品以上商品企画をすることがありますが、これは相当な数。 地域の事業者と直接会って、本気でマーケティングしていかないと、作れない商品数です。その地域に毎日いて、日常的に会話をしているのでコミュニケーションの量が違うし、信用が違う。それが商品力に直結しているんだと思います。

そのまちのファンを作る

私たちが商品企画する際には、「その自治体に寄附しないと手に入らないものを見つけること」にこだわっています。ときには事業者と一緒になって開発することも珍しくありません。 もう一つの大きな特徴は、「ふるさとブック」という商品カタログを制作していることだと思います。単に商品を羅列しただけのカタログではなく、観光情報や生産者へのインタビュー記事など、地域の魅力を盛り込みながら、「そのまちに来てもらうこと」をゴールにしたカタログ作りを心がけています。
実際、カタログを片手にまち歩きをされている方を見かけることもあって、すごくうれしいですね。寄附額の増加も大事ですが、そのまちのファンになってもらうことが、なによりも重要。ふるさと納税をきっかけにして、そのまちのファンを作り、観光誘致や移住促進につなげていくことを、常に意識しています。

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高収入を捨ててUターンした理由

私自身は佐賀県の出身です。福岡の大学から、東京の大手IT企業に就職し、営業としてキャリアを積んだ後、東京でモバイル広告のアフィリエイト事業を立ち上げました。28歳の時でしたが、サラリーマン時代の10倍稼いでいました。でも東京には、上には上がいるんですよ。若くして高給を稼いで、銀座や六本木で遊びまわっている、そんな人たちも周囲に少なからずいて…。そういうのを見ているうちにだんだん違和感を覚えるようになってきたんですよね。何のために働いているのか?と…。

そんなタイミングで2011年に東日本大震災が起きて、「自分だから社会に貢献できることって何だろう?」と真剣に考える契機になりました。そして、一度、地元に戻った後、思い出したのが、母の実家が有田焼の窯元をやっていることだったんです。有田焼は世界に誇れる伝統工芸です。でも近年は下火になり、窯元も減り続けています。それはすごくもったいないこと。もう一度、有田焼を盛り上げるために、何か貢献できないかと、有田町への移住を決断し、その後はまちづくりに関わる会社で働くようになりました。そのときに携わったのが、ふるさと納税事業だったんです。自治体側の課題を知ることができたと同時に、市場の可能性の大きさを直感し、この会社の起業へとつながりました。

ふるさと納税が日本を救う

ふるさと納税制度を通してまず気づいたのは、日本にはこんなにお金持ちがいるんだ!ということでした。年収1億円の人が、2万3000人もいるんです。年収1000万円から1500万円の人にいたっては、220万人もいます。私の計算では、ふるさと納税には2.5兆円のマーケットがあると見積もっているんですが、今はまだ8302億円の実績しかありません。つまりまだまだ伸びる余地があるんです。

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もう一つ気づいたのは、この制度のすごい意義です。これは私の中の仮説ですが、年収1億円を超えると、海外に移住する人が多いのではないか?と考えています。その理由は税効率の問題。例えば、相続税だけでみると、日本の相続税は世界でトップクラスに高いです。反対に例えば、シンガポールは日本と比べて所得税や法人税が安く、住民税や相続税はありません。だからある程度の収入があると、税効率を考慮した時に、海外に移住した方がメリットが大きいので、そうする方々が増えると思うのですが、みんな日本人なので、心の中ではやっぱり日本が好きなんですね。なので、仮に一度海外に移住したとしても、日本に帰国したときに、やっぱり日本のおいしいものを食べたい。そういう富裕層にとって、ふるさと納税はすごくメリットがあるんです。

日本の非常にレベルが高いもの。安全安心に楽しめるもの。今まで知らなかったすばらしいものが、日本全国からダイレクトに届くうえ、地域の応援になる。この仕組みを使えば、富裕層が日本にとどまる理由になりえるし、なおかつ地域が活性化していくじゃないですか。世界に類を見ないすばらしい制度だと思いますし、もっと活用されていくべきだと思っています。

家族が1番・仕事は2番

社員は現在、150人ほど。今年(2022年)1年で70人増えました。営業、エンジニア、デザイナー、カスタマーサポートといった職種があり、平均年齢は30歳。都会からのIJターン者が7~8割いると思います。背景はさまざまですが、地元愛が強い人、地域を盛り上げていきたいという熱い思いを持った人が多いですね。
私自身は、佐賀県有田町に住んでいます。子育て環境はサイコーですね。全国の自治体に子育て支援センターがあると思いますが、想像していた以上に地方はサービスのレベルが高いです。例えば、有田町の子育て支援センターには保育士さんもいるし、おもちゃもたくさんあるし、しょっちゅう利用しています。おかげで子育てが楽しくて仕方ない。

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当社のモットーは、「家族が1番・仕事は2番」です。家族って、子育てや介護など、事情がどんどん変わっていくじゃないですか。そんな家族の事情にできるだけ柔軟に対応できる会社でありたいと思っています。事業所も今、7か所あるんですが、裏側の理由としては、結婚して他の地域に移住したなど、社員ありき、家庭の事情ありきで、拠点を増やすこともあるんですよ。なので新設を機に近くの自治体にアプローチする、というパターンもあるんです(笑)。
なぜ?と思われるかもしれませんが、そうじゃないと、大きな会社に勝てないからです。会社は人材がすべてなので。

日本を元気にする船になりたい

社名の「スチームシップ」とは、蒸気船という意味です。今から150年前、明治維新のきっかけとなり、日本を救った技術が、蒸気船でした。この30年間、日本のGDPが上がっていかないなかで、この国をいかに元気にしていくか。そのためには「船」が必要だと思ったんです。この会社はいわば、地域の宝探しをする船。同じ志を持つクルーたちといっしょに旅をしていく―そう考えるとワクワクするじゃないですか。ときには寄り道もし、物語を紡ぎながら、「地域から日本を元気にする」というゴールをめざしていきたいと思っています。

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オファーは年々増え続けており、当社の社員も拠点もどんどん増えていくと思います。でも、やることは同じ。地域の事業者に寄り添いながら、地域の宝を探し、磨きをかけて、全国に届けていくこと。地域にはまだまだ、宝物が山ほど眠っています。だって全国にある1700の自治体のほとんどが、「地域」なんですから。 もっと地域に目をむけてほしいし、地域出身者でもこうやって新しいビジネスを作れるということ、地域は稼げるんだよということを、証明していきたいですね。東京は稼ぐためにいくのではなく、遊ぶためにいくところくらいがちょうどいいなあと。

もし今東京にいて、何か違和感を覚えている方がいるなら、地域で働くというのを選択肢にいれてみるのはどうでしょう。もしかしたら、地域だからできることが見つかるかもしれないですし、案外、東京よりもチャレンジングな仕事があるかもしれません。これからの新しい時代で、どこが自分らしくいられるのか、あるいは時代に合わせて自分をどう変えていけるかが大切な気がします。東京より豊かな暮らしが手に入るかもしれませんよ。