社会福祉法人 長崎厚生福祉団

離職率の高さに悩んでいた社会福祉法人が、「働きやすさ長崎NO.1」になれた秘密とは?

2022.08.22
インタビュー写真
業務執行理事 千々岩源大さん
長崎県が認証する「Nぴか認証制度」をご存知でしょうか。誰もが働きやすい環境づくりに積極的に取り組む県内企業を認証するこの制度で、ちょっと意外な法人が最上級の五つ星を獲得しました。それが、数々の高齢者福祉施設を運営する「社会福祉法人 長崎厚生福祉団」です。
介護業界といえば、社会的ニーズは高い一方で、働く環境が厳しく、離職率が高いイメージ。同法人もかつては同じ悩みを抱えていましたが、業界の課題と真正面から向かい合い、ついに「働きやすさ長崎NO.1」のお墨付きをもらうまでになったのです。その道のりを、改革を進めてきた千々岩源大さんが語ってくださいました。

14の施設を展開し、毎日900名にサービスを提供

「長崎厚生福祉団」は昭和54年に設立し、今年で43周年を迎える社会福祉法人です。「福祉文化の創造」という経営理念のもと、「福祉の人づくり」「福祉のまちづくり」という目標を掲げ、長崎市、大村市、川棚町、対馬市で、特別養護老人ホームなど14の拠点で、34の社会福祉事業を経営しています。まだまだお元気な方から、介護が必要な方まで、高齢者の皆様にトータルでケアを提供できるところが、私たちの強みだと思っています。法人全体でベッド数は754床、通所定員は215名。毎日約900名の利用者様に福祉サービスを提供しており、約670名の職員が働いています。高齢者向けの社会福祉法人としては、県内最大級の規模だと思います。

インタビュー写真

こだわりを詰め込んだ「シンフォニー稲佐の森」

なかでも象徴的な施設が、長崎市にある「シンフォニー稲佐の森」です。特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、ケアハウス、診療所などを一体的に整備した高齢者多機能複合施設で、長崎港と市街地を一望できる稲佐山の中腹にあります。大きな窓から見える素晴らしい眺望は、この施設の大きな自慢。夜景と花火をいっしょに見られる場所は、長崎市内でもそうそうありませんからね。

設計にも長崎らしさを全面的に取り入れています。入口のアーチが眼鏡橋のデザインになっていたり、階段や広場は長崎くんちの舞台となる石畳をイメージしていたり。
広い敷地内には、バス停もありますよ。長崎バスさんに交渉してつくってもらったんです(笑)。バス停の名前もずばり「シンフォニー稲佐の森」。30分に1本、バスが走っていて、長崎駅から10分で来ることができます。職員の通勤に便利ですし、利用者様のご家族がいらっしゃる際にも便利だと好評です。
サービス面では、「私が受けたい介護」「身内を預けたい施設」を合言葉に、職員の教育に力を注いできました。うれしいことに、実際に身内を預けている職員も多いんです。自分たちの施設に誇りを持てている、なによりの証だと思います。

無資格未経験者を積極的に採用。1から育てるノウハウを構築

当法人のもう1つの大きな特徴は、無資格未経験者を積極的に採用してきたことだと思います。
きっかけは、2010年前後、ある大手企業が介護業界から撤退し、介護職に対するマイナスのイメージが広まったことでした。介護を学ぶ学生が激減し、専門学校の閉校や、大学の介護学科の閉科が相次いだのです。そこで私たちは思い切って募集の門戸を一般学科に広げ、自分たちで福祉人材を育てていく方針へとかじを切りました。

インタビュー写真

そしてわかったのは、この仕事には経験や資格よりも大事な資質があるということ。「人に喜ばれたい」「子どもの頃にお世話になったおじいちゃん、おばあちゃんに恩返しがしたい」、そんな思いが働く姿勢に表われるんですよ。また、まっさらな状態で入ってきますから、「教えやすい」という魅力もあります。まるでスポンジのように知識やスキルを吸収してくれますから。
と同時に、未経験で入ってくる人材をしっかりと育てる教育体制づくりにも取り組んできました。そして作り上げたのが、「プリセプター制度」。病院の新人教育でよく行われている手法なのですが、3~4年目の職員が新人に1年間ついて、介護の実務をマンツーマンで指導していきます。1人1人にあったきめ細やかな指導ができますし、先輩職員にとっても「教える」ことで知識を確固たるものにすることができます。各現場で行うこのプリセプター制度と、会社全体で行う法人内研修が両輪となることで、新人教育がスムーズになり、離職率も大幅に減っていきました。

残業を減らし、休みをとりやすく。職員食堂や保育所も開設

離職率が減ったのは、働きやすい職場づくりに取り組み続けてきた成果でもあります。10年ほど前までは当法人も離職率の高さに悩んでいました。いくら採用をしても、やめていく職員が減らなければ、穴の開いたバケツに水をくむようなものです。その穴を何とか埋めないといけない。そう考え、働き方改革チームを立ち上げました。職員1人1人の話を聞き、またアンケートをとって、現場にある課題を1つずつ解決していったのです。

具体的には、まずサービス残業をなくしました。また残業そのものも減らし、休みもとりやすくしました。お昼の弁当を作る余裕がないという声にこたえて、「シンフォニー稲佐の森」には職員食堂も作りました。1食300円で食べることができ、1日100人の職員が活用しています。とても好評ですよ。また保育施設も施設内に作り、職員の子どもは無料で預かっています。
そうした数々の取り組みが評価されて、今年、長崎県が認証する「Nぴか認証制度」で最上級の五つ星をいただくことができました。長年めざしてきた「働きやすさ長崎NO.1企業」を達成することができ感無量です。

でもいちばんうれしいのは、やっぱり離職率の減少です。そのうえ、1度やめた職員の復職や、紹介での入職も増えてきました。採用し、育成して、確かなスキルを持った職員が増えていけば、現場の体制も整っていきます。だから残業をしなくてよくなるし、休みもとりやすくなる。この好循環が、生まれているんです。

長崎くんちにもUターン。小さい頃からの夢をかなえて号泣

私は創業者の次男として、長崎市で生まれ育ちました。現・理事長の千々岩源士は、兄になります。私は大学進学と同時に福岡へ出て、大手コンビニチェーンに就職しました。福岡市と宮崎市で5年間、店長やOFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー)として働いた後、長崎にUターンしてきました。正直いうと、帰るつもりはなかったんですが(笑)、その頃に介護保険制度が始まり、施設を拡大していくということで、急きょ呼び戻されたんです。
当法人では、コンビニで学んだ経験を活かし、総務や人事、採用を任されてきました。でも最初は、人を入れては辞めていく…の繰り返し。くじけそうになりましたが、この悪循環を変えていくこと、ボトムアップで職員が働きやすい職場を作ることが自分のミッションだ!と、強く思うようになりました。

インタビュー写真

長崎に戻ってきてよかったと心から思えるようになったきっかけは、長崎くんちです。私は眼鏡橋の近くにある魚の町で生まれ、4歳の時から長崎くんちに参加してきました。
長崎を出てからは途切れていましたが、Uターン後にまた関わり始め、5年後に初めて「根曳(ねびき)」を任せてもらえたんです。川船を勇壮に引き回す「根曳」は、長崎くんちの花形であり、小さい頃からの夢。うれしかったですねぇ。3日間が無事終わった時は、諏訪神社での奉納が終わった後、号泣してしまいました。

長崎くんちは、町の自治会が中心となって行うんです。私も自治会の青年部に入り、ラジオ体操や夜市など、日頃から地域を盛り上げる活動に参加しています。そうした活動を通じて得られる、人のつながりは何よりの財産。子どもたちも、地域の大人たちに「なんばしよっとか」と見守られながら育っていくんですよ。私がそうだったように。 親になってみて、長崎は子育てにも良い環境だと感じます。身近なところに自然があり、あたたかくて粋な大人たちがいます。世界から評価される歴史的遺産もたくさんある。外から帰ってきた人の方が、長崎の良さがわかるかもしれませんね。

インタビュー写真

介護は究極の接客業。さまざまな経験や特技が活かせる

ただその一方では、高齢化と人口の減少が進んでおり、将来的には人手不足で立ち行かなくなる法人も出てくるのでは?と予想されています。そのときに、いかに支えられるかが、当法人の大きな課題。もし施設がなくなってしまえば、その地域の福祉は崩壊してしまいます。ですから今のうちに、高齢者福祉の支え手をたくさん育て、法人としての足腰を強くしておく必要があるんです。

そのため今後は、中途採用にも力を入れていきたいと考えています。未経験者も大歓迎。新卒と同じように、大切に育てていきたいと思っています。実際に、ホテルやコールセンター、スーパーマーケットなど、異業種から入ってきた職員もたくさん活躍しています。介護は、それまでに培ったホスピタリティを活かせる仕事だからです。

介護の仕事は、「究極の接客業」だと私は思っています。利用者様の最後のライフステージに寄り添い、心から安心して暮らしていただけるように、「ここでよかった」と思ってもらえるように、日々接していく仕事です。もちろん苦労もありますが、それを上回る喜びややりがいがあります。きっと職員1人1人の中に、感動エピソードがたくさんあると思いますよ。

職員にもいろんなタイプがいてほしいと思っているんです。利用者様も十人十色ですからね。職員に多様性があるからこそ、いろいろな利用者様に対応することができます。また1人1人の得意なことや趣味を活かせるのも、介護職の魅力だと思います。楽器、書道、イラストなど、いろんな特技を持ち寄ってほしいですね。

一方では、これだけは持っていてほしいという資質もあります。それは、人を喜ばせることが好きであること。プラス思考で、勉強好きであること。そうした資質を備えている方ならば、経験や資格は問いません。福祉の世界で活躍できるチャンスは大いにあると思います。
ですからぜひたくさんの皆さんに、この「究極の接客業」にチャレンジしていただきたいですね。長崎の未来を守るために。